同仁・ニャン君の家
不安を乗せてタクシーは街の通りを北に向かう。15分ほど走ると左に曲がり村の中に入っていく。ある家の入口で停まった、少し下ったところに門があり、子供が遊んでいた。
運転手が声を張り上げるとチベット犬が吠えだしおばあさんが出てきた。どうやらここがホームステイ先のようだ、とてもいい感じの農家だ。
おばあさんは私の荷物を受け取ると、10mくらいある門まで運んで行く、私もついて行き門をくぐった。
壁に囲まれて中庭は広くとってあり、東と北側に部屋が五つくらいあった。小さな一部屋には仏像が祀ってあった。庭の中心近くに香をたくレンガで造った炉があり、タルチョがはられている。明らかにチベット人の家だ。
そこへニャン君がやって来た、缶ビールを半ダースほど抱えて。なんと、ここはニャン君の家だった。てっきりツェタンさんのアシスタントだと思っていた。
ニャン君の部屋に通される。やはり片側にくくりつけの大きなベットがあり、反対側は勉強机とたんすがあった。まん中にソファーとテーブル。机の上には日本語の教科書がたくさん積まれていた。
ニャン君は日本留学を目指していたのだ、二年前までは、しかし留学ビザはおりなかった。チャンスは一度しかない、そこでニャン君の夢は終わった。
これが僕が勉強していた問題集ですといって机の上の本を見せてくれた。けっこう難しい、答えを迷ってしまう問題もある。
今ニャン君は立ち直って日本語通訳を目指している。しかし旅行社の日本語ペラペラの人たちのするどさを見てきた私には、ニャン君は若干あまいように思うけど…、幸運を祈ってあげよう。
しばらく話をしてから、夕食前にぐるっと村を一回り散歩した、降り出した雨はすぐやんだ。
どこの家もみな土の壁で囲われていて中は見えない、そして曲がりくねった道に並んでいる。まるで日本の田舎のようだ、畑はすべてツァンパの元になる青稞(ハダカムギ)が植えてある。まだ青くてきれいだ。
平地には木があるが山には木がない、なんとなく殺風景でさみしく見える、標高のせいだろうか。
畑の中にチョルテンがある、でも道がない、どうやって行くのだろう。
大きな木があった、雷にかなりやられているみたいだ。大きなほこらはキツツキのせいだ、中からコンコン音が聞こえる、キツツキの音を生で初めて聞いた。
のどかで楽しい村だ、いい所だ。